ジェフ・ベックの近年(2016年~)の機材と音楽性
2016年9月以降から2022年のアルバム『18』リリース期にかけて、ジェフ・ベックの使用機材は大きく変化しており、その変化は彼のサウンドや音楽表現に多大な影響を与えています。
ここでは、提供された情報を基に、主な機材の変化とその音楽的な意義について紹介します。
ジェフ・ベックとジョニー・デップの共同制作アルバム『18』
アルバム『18』は、伝説的ギタリスト ジェフ・ベックと俳優・ミュージシャンであるジョニー・デップのコラボレーションによって誕生した、ジャンルを超えた音楽作品です。
このアルバムは全13曲で構成されており、インストゥルメンタルが3曲、ボーカル曲が10曲です。収録曲は多岐にわたるジャンルのカバー曲と、ジョニー・デップによるオリジナル曲が含まれています。
アルバム『18』収録曲一覧
タイトル | オリジナルアーティスト | 特徴 |
---|---|---|
Midnight Walker | Davy Spillane | アイルランド音楽家のカバー。インストゥルメンタルで、緊張感あるオープニング。 |
The Death And Resurrection Show | Killing Joke | ヘヴィなリフとデジタル処理。ソロはエフェクト重視。 |
Time | Dennis Wilson | ピアノ主体の原曲をドラマチックに再現。ベックのクリーントーンが光る。 |
Sad Motherfuckin’ Parade | Johnny Depp(オリジナル) | デップとベックの共作。編集主体のデジタル楽曲。 |
Don’t Talk (Put Your Head On My Shoulder) | The Beach Boys | 繊細な浮遊感を重視したインスト。短く忠実な構成。 |
This Is A Song For Miss Hedy Lamarr | Johnny Depp(オリジナル) | 制作のきっかけとなった楽曲。アコースティック主体。 |
Caroline, No | The Beach Boys | インストで原曲に忠実。味わい深いが短い。 |
Ooo Baby Baby | The Miracles | メロウなソウル・カバー。ベックが全楽器を担当しデップが歌唱。 |
What’s Going On | Marvin Gaye | 原曲に忠実なアプローチ。後半に組曲的展開。 |
Venus in Furs | The Velvet Underground | サイケな選曲。ヘヴィでスリリングな展開。 |
Let It Be Me | The Everly Brothers | バラード調。ペダルスティール風プレイなど技巧が光る。 |
Stars | Janis Ian | ジャズバラード。控えめな演奏だが後半に印象的なソロ。 |
Isolation | John Lennon | 編集とリアルの融合的サステインが印象的なカバー。 |
本作では、両者の個性と才能が有機的に融合し、互いの持ち味を引き出し合いながら制作が進められました。以下に、各アーティストの貢献とその意義について紹介します。
ジェフ・ベック × ジョニー・デップ『18』:異才2人による音楽の対話
2022年にリリースされたアルバム『18』は、ギター界の巨匠ジェフ・ベックと俳優・音楽家ジョニー・デップの異色コラボレーションによる作品です。このアルバムは、ただのコラボレーションではなく、両者が互いの才能をリスペクトし合いながら真に「共作」した作品として評価されています。
全13曲のうちオリジナル2曲を含むこのアルバムは、ジャンルを超えた楽曲構成と濃密な演奏によって、現代ロックの可能性を提示しています。
ジョニー・デップの存在感と多才な貢献
アルバム制作の発端となったのは、ジョニー・デップが書いた楽曲「ミス・ヘディ・ラマーに捧げる歌」でした。この曲に感銘を受けたジェフ・ベックが「一緒にアルバムを作ろう」と声をかけたのが、すべての始まりです。
デップはオリジナル曲2曲を提供し、ボーカル曲10曲中少なくとも9曲で歌声を披露。代表曲「ウー・ベイビー・ベイビー」や「孤独」では、彼の情感豊かな歌唱が作品全体のトーンを決定づけています。
ボーカルのみならず、デップはリズムギター、ベース、キーボード、プログラミングも担当。「ウー・ベイビー・ベイビー」ではジェフ・ベックが演奏した全ての楽器の上に、彼のボーカルが乗る形となっており、その信頼関係が垣間見えます。デップは単なる俳優の余技ではなく、真の音楽家として、アルバムに大きな存在感を示しています。
ジェフ・ベックの圧巻のギターワークと楽曲への貢献
一方のジェフ・ベックは、全編にわたって唯一無二のギタープレイを披露。リードギターのみならず、複数曲でリズムギター、ベース、さらにはドラムも演奏。「ウー・ベイビー・ベイビー」や「ミッドナイト・ウォーカー」ではベースを担当し、「安らぎの時」では繊細な演奏と美しいトーンで楽曲の情緒を支えています。
特に注目すべきは、「サッド・マザファッキン・パレード」における共作クレジット。この曲はジョニーが制作したトラックにベックがギターで加わり、アレンジにも関与したと考えられています。これにより、楽曲の展開や雰囲気がより多層的で複雑なものとなっています。
ジャンルを越えた選曲と音楽的対話
『18』では、ジャニス・イアン、デニス・ウィルソン、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドなど、ジャンルも時代も異なる楽曲がカバーされています。
これは、ベックとデップが「自分たちのコンフォートゾーンからあえて離れる」という意図に基づく選曲でした。中でもデニス・ウィルソンの楽曲は、ベックが『Pet Sounds』を愛聴し、ブライアン・ウィルソンとのツアー経験を持っていたことが背景にあるとされています。
才能が交差するアルバム『18』
『18』は、2人のアーティストが持つ異なるバックグラウンドと強烈な個性が、奇跡的な融合を果たしたアルバムです。ジョニー・デップは本格派の音楽家としての顔を見せ、ジェフ・ベックは「神業」とも言われるギター・テクニックで応えました。
アーミング、ハーモニクス、ボリューム奏法、リング・モジュレーターなどを駆使し、攻撃的でありながら繊細なプレイが印象的です。
単なる異色コラボではなく、音楽的対話の積み重ねとしての完成度が光る『18』。ロック、ソウル、ポップ、エレクトロニカなど様々な音楽的要素が溶け合ったこのアルバムは、まさに2020年代の名盤と呼ぶにふさわしい作品です。
機材とギターの変遷
- 2016年〜2019年:リバース・ヘッドのストラトキャスターを主に使用。ネック形状やストリング・ガイドなどに複数のバリエーションが確認されている。
- 2022年『18』期:ノーマル・ヘッドのストラトにメインギターを変更。トッド・クラウスによる製作と推測されるネックを搭載。一部楽曲(「Little Wing」)ではリバース・ヘッドも継続使用。
アンプの構成
- 『18』期には、BECKTONE M-80とMarshallのヘッド+キャビネットの組み合わせを使用。
- 状況に応じて両者を使い分け、プレイスタイルに応じた柔軟な音作りが可能に。
エフェクターの進化
- MXR Variac Fuzz:かつてはギター直後に接続されていたが、ペダルボード内に組み込まれるように。
- レスリー・シミュレーター:Hughes & Kettner Rotosphere から Neo Instruments VENTILATOR II に変更。
- トレモロ:2019年以降使用。『18』ツアーでは Empress Effects Tremolo 2 を導入。「Rumble」や「ミス・ヘディ・ラマーに捧げる歌」で顕著。
音楽性への影響
- アルバム『18』では、超絶技巧とメロディアスな表現力が高度に融合。ボーカルのようなニュアンスも強調。
- 手元のボリューム操作によるダイナミクス表現、異常なほどのサステインが特徴。
- 「レット・イット・ビー・ミー」では、ペダルスティール的な奏法を駆使し、極めて繊細な演奏を実現。
- トレモロは、ジョニー・デップとのコラボ曲である「ミス・ヘディ・ラマーに捧げる歌」などで、抒情的なニュアンスを付加。
- 全体的にクリーン・トーンとオーバードライブの境界が非常に滑らかで、音楽性の幅が大きく広がっている。
アルバム『18』考察と結論
これらの機材の変化が、ジェフ・ベックの音楽性の「進化」と同期していることは間違いありません。特に空間系・モジュレーション系エフェクターの活用は、彼のサウンドに新しいテクスチャーと深みを与え、様々なジャンルへの対応力をさらに高めています。
『18』に見られるジャンル横断的な楽曲と個性的なトーンは、その機材選択の成果であると言えるでしょう。ベックは常に機材を通じて自身の芸術表現を追求し続けたギタリストであり、その変化は技術と感性の融合を象徴しています。